巻頭言
池 東旭の


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池 東旭
(ソウル在住/
国際ジャーナリスト)





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韓国の粛清旋風
旧悪去って新悪現る

──デジャビューの光景
 北朝鮮情勢に目が向いている中で今、積弊清算の旋風が韓国で吹き荒れている。元大統領朴槿恵、李明博は収賄などの罪科でそれぞれ懲役25年と15年、罰金200億ウォンと130億ウォンが宣告された。ほかにも多数の高官が断罪された。前大法院長と元大法官ら司法府要人も訴追された。サムスン、ロッテ、大韓航空など財閥オーナも例外でない。今年上期、捜査押収令状は1日平均650件も発給され、前年より20%急増した。
 昔は軍部が最大の権力集団だった。今は弁護士出自の文在寅大統領のもと検察、弁護士ら法曹界が最強のパワーグループだ。積弊清算というもののホンネは前政権への報復で、ポストの総入れ替えだ。政治、経済、社会いたるところ旧政権人士を追放して、左派から登用する。その基準は恣意でダブルスタンダードだ。旧政権への報復と北に対する宥和姿勢とは対照的だ。この光景はデジャビュー(既視感)の記憶を呼び覚ます。初代・李承晩以来、大統領12人が交代した。その度に新政権は不正腐敗征伐に乗り出し、前政権の旧悪を暴き処罰した。だが新参も旧弊に染まるのは時間の問題だ。「旧悪去れば新悪現る」である。積弊清算は権力交代の常套文句だ。粛清された「旧悪」に反省の色は微塵もない。運が悪かったと思う。歯ぎしりして再起のチャンスを窺う。

──党争の伝統
 朝鮮王朝500年は党争の連続だ。初期は王朝創建の功臣(勲旧派)と新進官僚(士林派)が対立した。その後東人・西人、南人・北人、大北・小北、老論・少論など核分裂しながら抗争した。党派対立は理念の相違でない。血縁、地縁と既得権が絡む権力闘争だ。そこに血で血を洗う報復が伴う。敗者は流刑になり、中には凌遲處斬(体を切断する処刑)、剖棺斬屍(墓を暴き屍体を刻む)された者もいた。連座制で3族(親族、外戚、妻の親族)も処罰される。男子は未成年でも殺され、妻女は奴婢の身分に落とされた。
 1884年クーデターに失敗した改革派の金玉均は日本に亡命したが、一族は幼い息子まで処刑された。本人も10年後、上海におびき出されて暗殺され、屍体は漢江の川岸に晒された。敗者も復活すれば凄まじい復讐に走る。19世紀末、守旧派と開化派、親清、親日、親露、親米派が次々と潰しあった末、国は滅んだ。
 第2次世界大戦後、米・ソが朝鮮半島を分割占領すると左・右翼、中間派が乱立した。1948年南と北で親米、親ソ政権が発足したが、中間派は消された。1950年北の南侵による動乱は3年後、休戦協定で一旦停戦になったが、火ダネは今もくすぶっている。

──反共親米から反日親中へ
 戦後、反共親米の保守政権は左派を弾圧したが、保守内の地域対立(嶺南、湖南)党争は止(や)まなかった。北の金日成政権はソ連帰りの親ソ分子と延安帰りの親中派を粛清して3代続く独裁体制を確立した。南の保守政権は経済開発に成功したが、貧富格差の激化で民主化運動が台頭する中、左派が息を吹き返した。1997年、IMF経済危機で左派政権(金大中・盧武鉉)が出現。左派の対北接近を危惧する世論に後押しされた保守は、2008年再執権した。しかし保守政権は反共に代わる新しい理念を見出せず、独善、腐敗にはまり、大統領弾劾であっけなく没落した。
 ろうそくデモで返り咲いた左派政権は保守に対抗して平和統一、南北和解・協力を掲げ、保守残党狩りに血眼だ。文政権は民族至上のナショナリズムを唱え、反日親中を加速する。だが大衆迎合のバラマキは経済を悪化させ、そのポピュリズム政策は破綻に直面している。北の独裁者は経済開発を目指す。だがジレンマだ。経済発展がもたらした民主化で南の朴正熙政権が転覆した先例がある。北の独裁者の切り札は今、核しかない。平和統一の幻想に浮かれる南だが、現実は厳しい。
(ソウル在住/国際ジャーナリスト)


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