巻頭言
佐伯啓思の


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佐伯啓思氏
(京都大学名誉教授)





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好調な経済の背後の不安

 今、日本経済は調子がよいのか悪いのか、どちらなのであろうか。確かに統計数値を見れば良好というほかない。なにせ戦後2番目の長期的な景気回復である。多くの企業は好調な業績を上げ、雇用情勢も良好である。株価は、最近少し不安定な動きを見せているとはいえ、数年前の2倍以上になっている。外国人は続々とやってきており、大都市には次々とホテルも建設されている。あきらかに、一時の長期的な停滞は脱出したかに見える。
 しかし、その割にはその実感がないという声も聞こえてくる。平均的なサラリーマンの給与がそれほど上がっているわけではなく、消費支出がそれほど増えているわけではない。大都市はともかく、少し列車にでも乗って地方へ行けば、どの町も中心部はおおよそシャッター通りになって人けも少ない。
 こういう状況を鑑みてか、先日、日銀は黒田東彦総裁の続投を決定した。つまり、超金融緩和策を続行するということだ。超金融緩和によってデフレ経済を克服するというアベノミクスの最大の課題は一応のところ達成されたものの、目標の2%インフレは達成されず、デフレ脱却もまだ本格的なステージには入っていない、というのである。
 アベノミクスが一定の成果を上げたことは疑いなかろう。異次元の金融緩和も一定の成果をもたらしたと言えるかもしれない。
 しかし、異次元的な金融緩和はこれで5年なのである。ついにはマイナス金利政策まで導入したにもかかわらず、企業投資はさほど増加しないのである。いや、超金融緩和そのものはすでに20年に及ぶ。1999年に速水優日銀総裁がゼロ金利政策を打ち出して以来、ほぼ20年におよぶゼロ金利状態が続いているのだ。
 言うまでもなくゼロ金利は異常な事態である。通常、企業は新規の事業を行ったり、新たな設備投資を行うためには資金需要を必要とし、そこに金利が発生する。なぜなら、投資資金の回収は将来になされ、将来は不確定だからである。そして、将来の資金回収には常に不確定性が付きまとい、そのリスクに対して金利が発生する。
 したがって一般的に言えば、将来の不確定性が高まれば金利は上昇する。ところが、さらに将来の見通しが悪くなって不確定性がより高まれば、企業は長期的な投資を控えるであろう。すると資金需要が低下して金利は低下する。もちろん今日、金融市場が発達したために企業は株式や社債発行によって資本を調達できるものの、それにしても、資金調達コストがゼロという状態が20年にわたって続くのは、もはや一時的な経済の不調というだけではない。
 資本主義経済を動かすものは、企業の新製品開発であり、それは長期的な新事業や研究開発や新設備への投資によって可能となる。この投資によって経済は成長する。そしてこれらの投資へ向けた企業の意思を決定するもっとも重要な要因は、将来の経済見通しであり、将来の需要予測である。つまり、20年にもわたるゼロ金利とは、この将来予測がきわめて不透明であることを示している。
 ということは、今日の資本主義経済はもはや十分に成長できる状態にはない、ということになろう。いくら超金融緩和を続けても、一時的には景気刺激効果はあっても、長期的な経済成長をもたらすとは期待できないであろう。これは必ずしも日本だけのことではなく、先進国全般に見られる現象なのである。いわば資本主義は成熟段階に入りつつある、ということなのである。
 アベノミクスは、3本の矢で日本経済を再び成長路線に持ち上げると言っている。だが、一時的には効果はあるとしても、長期的には、われわれは脱成長へ向かっていることを知っておかねばならない。 
(京都大学名誉教授)


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