巻頭言
佐伯啓思の


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佐伯啓思氏
(京都大学名誉教授)





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高齢化社会に向けて
地方の見直しは可能か

 2017年は、北朝鮮問題を除けば、日本にとっては比較的おだやかな年であった。経済は、統計数字を見る限り、良好な状態になっている。アベノミクスがそれなりに功を奏して、この秋の四半期の成長率は、年換算で2.5%になる。株式市場はミニバブルではないかと思われるほどに好調である。中国やアメリカの景気回復の影響もあって日本の輸出企業は好調な業績をあげている。AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)のイノベーションも将来への期待を膨らませている。
 経済がこのような調子だから、10月の総選挙においても経済問題はほとんど争点にならなかった。ことあるごとにアベノミクスを批判してきた野党も、この問題を打ち出すことはなかった。大きな争点になったのは、教育の無償化や消費税問題という、どちらかといえば、今この時点でさしたる緊急性をもたない論点であった。
 しかし、本当に問題はないのであろうか。私には、現在の日本経済の好調さも、ほとんど大都市、とりわけ首都圏中心の現象であるように見える。確かに、仙台や福岡といった地方の拠点都市も人口が増加して景気は悪くない。インバウンドの恩恵を得ている都市もそれなりの活況を呈している。だが、特別に何という「売り物」を持たない地方の中小都市はどう見ても活気があるとは言えない。大都市とは対照的であり、これを見れば、とてもではないが、日本経済が戦後2番目の長期的好景気だなどとは言い難い。地方の県庁所在地でさえも、多くは、駅前はかなり閑散としており、商店街も人通りがない。飲食店もはやっているようには見えない。3、40年前にできたであろうデパートやショッピングセンターも賑わっているとは思えない。いささかさびしい風景が広がっている。
 ところが、少し違った見方も可能なのかもしれない。というのも、例えば、ある調査によると、大都市で働いている人の44%が地方への移住を欲している、という。とりわけ若者にその傾向が強いのである。
 また、読売新聞の調査によると、昨年1年間に孤立死をした人(誰にも看取られずに自宅で亡くなった人)は1万7000人を超えるが、これは死亡者全体に占める割合の3.5%だそうである。そして地域別に見ると、最も多いのが東京23区であって5.58%となっている。20人に1人以上が孤立死している。ところが地方はかなり低くなる。例えば佐賀が2.12%、富山が2.13%、岩手が2.41%といった具合である。
 おおよそ予想される結果ではあるが、かなりの差があると見るべきであろう。地方のほうがまだ家族の規模が大きく、親戚縁者が近隣に暮らしていたりするのだろう。地域がまだ残っており、相互扶助の体制がまだあるのだろう。しかも、地方のそれなりの都市にいけばそれなりの病院もある。昔からの行きつけの医者もいるだろう。
 今や日本は世界の先頭を走る高齢化社会になりつつある。もう少しすればおおよそ3人に1人が65歳以上の高齢者になる。現在、高齢者のうちの37%が1人暮らしだという。東京も一挙に高齢化が予想されている。
 もちろん、地方が高齢者ばかりになるのは避けなければならないとしても、高齢化社会とは地方の時代でもあるはずなのである。地方こそが、充実した生活の場でなければならない。そして、各種の主観的な幸福感の調査などでも、地方の生活の満足度はかなり高い。それは、地域のつながりがあり、生活の時間がゆったり流れているからであろう。このような地方の潜在的な豊かさを引き出しつつ、高齢化社会へ向けた国土のバランスをとることは、今日のもっとも重要な政策課題ではなかろうか。
(京都大学名誉教授)


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