ダミー
ダミー

ダミー
佐藤優 (さとう・まさる)
1960年、東京都生まれ。85年、同志社大学大学院神学研究科修了の後、外務省入省。在英日本国大使館、在露連邦日本国大使館に勤務した後、95年から同省国際情報局分析第一課に勤務。作家・元外務省主任分析官。著書多数。先頃『外務省犯罪黒書』をあえて自費出版した。


ダミー



ダミー



購読のお申し込み

デジタル雑誌のお求めは
こちらよりどうぞ




こちらからも
お求めいただけます。



■<シリーズ> 佐藤優の情報照射「一片一条」 連載130回


北方領土の落としどころが読めた
エカテリンブルク森・プーチン会談

■森喜朗元首相を迎えたロシアのプーチン大統領は最大限に歓待した。
会談からは2020年までの歯舞群島と色丹島引き渡しが読める。
長年北方領土交渉に携わってきた筆者がそう見える理由は――


 7月9日、ロシア・ウラル地方の中心都市エカテリンブルクで森喜朗元首相とプーチン露大統領が会談した。
〈プーチン氏は、エカテリンブルクで日本をパートナー国とする産業総合博覧会「イノプロム」が開かれるのを機に、親交が深い森氏を招待。約1時間40分にわたり夕食を共にした。/(中略)また、森氏によると、プーチン氏は日ロ関係について「安倍晋三首相と協力して平和条約締結に向けて努力していきたい」と語った。6月に予定されていて悪天候で中止された北方4島への元島民の空路墓参については「9月にぜひ再開してもらいたい。自分も最大の努力をする」と述べ、協力する考えを示した〉(7月10日「朝日新聞デジタル」)
 各紙の報道は、比較的あっさりしているが、プーチン大統領は森元首相を最大限に歓待した。ロシアでは一般に、誕生日を前祝いすることはない。しかし、森氏によるとプーチン氏は「私はあえて今日、ヨシ(森氏のこと)と誕生祝いをしたい」と言ったとのことだ。この種の夕食会の席でプーチン氏はアルコール類をあまり飲まない。しかし今回は、プーチン氏は白と赤のワインを交互にかなり飲んだとのことだ。

4島の共同経済活動は
領土交渉の環境を整備


 北方領土の共同経済活動についても、かなり踏み込んだやりとりがあった。同報道によれば、
プーチン「ハンブルクのG20サミットで安倍首相とお会いした。良い会談を行った。トランプ米大統領との会談が長引いてお待たせして恐縮している。安倍首相はまじめで真摯な人で、大変良い人物だ。好きだ。だから是非共に平和条約に向けて努力していきたい。2人で解決したい。そういう気持ちがさらに強まっている。北方領土の共同経済活動の可能性を探求した長谷川調査団はよい仕事をした」
森「もう少し長期間調査に従事したほうがよかった」
プーチン「次の機会には是非そうしたい」
 プーチン氏としては、北方4島の共同経済活動を進めることによって領土交渉の環境を整備することを真剣に考えている。
 さらに6月に予定されていたが、天候不良のため中止になった元島民の飛行機による国後島訪問についてもプーチンは「9月にはぜひ、実現したい。私も最大の努力をする」と述べた。ロシア政府内には、日本側にロシアの航空管制規則に明示的に従わない形で日本の訪問団を受け入れることが好ましくないと考える不満がある。プーチン氏は大統領権限でそのような不満を抑え込むと約束したのだ。
 現時点で日露の外交当局は、今後の北方領土の動きについて何も述べていない。しかし、筆者のように長年、この交渉に従事した経験がある者には、両国の外交官が何を考えているかは容易に想像できる。
 来年3月にロシア大統領選挙が行われ、想定外の自体が生じない限りプーチン氏が再選される。その後、両国は、平和条約締結後にロシアが日本に歯舞群島と色丹島の2島を引き渡すことを約束した1956年の日ソ共同宣言をベースにして交渉が進められる。同時に国後島と択捉島については、主権はロシアにとどまるが、過去の歴史的経緯と日本の国民感情を考慮して、日本人が簡易な手続きで訪問する態勢が整えられる。この方向で安倍首相とプーチン大統領が合意すれば、2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに歯舞群島と色丹島が日本に引き渡される可能性もある。

「返還」と「引き渡し」
用語が持つ深い意味


 ちなみにここで筆者が「返還」ではなく「引き渡し」という用語をあえて用いているのには意味がある。返還とは、本来、日本の主権下にある北方領土をロシアが不法占拠しているので、それを正しい状態に戻すということだ。これに対してロシアは、第2次世界大戦中の連合国の合意で北方領土はロシア領になったので、日本に返還しなくてはならない島はロシアにはないということになる。ただし、歯舞群島と色丹島を贈与することはできるというのが今後、ロシア政府がとるであろう立場だ。日本としては、不法占拠された領土を贈与されるという解釈を受け入れることはできない。それだから引き渡しという、事実として歯舞群島と色丹島がロシアから日本に移転することのみを記す。日本は国内に向けて「ロシアによって不法占拠された2つの島が返還された」と主張し、ロシアは「日本との関係を発展させるために、善意で歯舞群島と色丹島を日本に贈与する」と主張する。そして互いに相手の国内向け説明を非難しないというところで、落としどころをつくる。外交の世界では、このような玉虫色の解決は難しくない。
 森氏は口を閉ざしているが、歯舞群島、色丹島が日本に引き渡された後、そこで米軍が展開する可能性についても議論をしたと筆者は見ている。プーチン氏は、日米安保条約の重要性、同盟関係がどういうものであるかについて熟知している。日米安保条約の改定を日本に要求することができないので、日本政府の政治判断で歯舞群島と色丹島で米軍を展開させないという決断を行えば十分だという認識をプーチン氏は抱いていると思う。
 今回、興味深いのは記者とのやりとりで森氏が、「私は階段上がるのが大変で、10段上がるのがやっと。1番心配したのがうちの娘。妻に代わって、介護で私についてきた。大統領が『なぜ一緒に食事に呼ばなかったんだ』というから『制限したのはロシア側だ』と言ったら『そうか。じゃあ娘さんにあいさつしたい。ホテルまで送るから』ということで。プーチンという人は、KGBというイメージがあるけれど、あれほど日本人の感性を持っている人はいない」(同)と述べたことだ。森氏が命懸けで北方領土問題を解決しようと思っていることにプーチン氏は強い共感を抱いている。難しい外交においては、このような人間関係がとても重要になる。
ダミー
ダミー
ダミー

(C)2017 株式会社エルネオス出版社. All rights reserved.
〒105-0003 東京都港区西新橋1-22-7 丸万7号館4F 
TEL.03-3507-0323 FAX.03-3507-0393 eMAIL: info@elneos.co.jp