巻頭言
枝廣淳子の


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池 東旭氏
(東京都市大学教授
/幸せ経済社会研究所所長)





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企業に求められている
ESG投資への準備


 投資をめぐる状況が大きく変わろうとしています。読者の皆さんの周辺ではその対応ができているでしょうか?
 以前から、SRI(Social Responsible Investment)と呼ばれる社会的責任投資が行われてきました。これは、年金基金・金融機関・個人などの投資家が、投資の社会的役割を考え、企業の社会課題への取り組みを評価して銘柄選択などをするものです。
 SRIは1920年代の米国で始まりました。キリスト教系の資金が、ギャンブル・武器・酒・たばこ関連の望ましくないと考える企業を投資対象から除く取り組みを始めたのです。その後、1960〜80年代にベトナム反戦、公民権運動、南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)問題、環境問題などの社会運動が盛んとなり、ナパーム弾製造企業や南ア進出企業への投資を中止する動きが広がりました。2012年には、学校での銃乱射事件をきっかけに、カリフォルニア州教職員退職制度が銃器製造企業への投資を禁止し、ほかの年金基金にも広がりました。
 こうして、企業の社会的責任の観点から望ましくない投資対象を除外するネガティブ・スクリーニングとして始まったSRIですが、企業の良い面を評価して投資するポジティブ・スクリーニングも広がりました。
 2000年には、英国で年金法が改正され、(1)社会、環境、倫理を考慮しているかとその程度、(2)株主の権利行使の方針の有無・内容についてといった情報開示が求められるようになります。その後、スウェーデンやドイツなどにも同様の動きが広がり、これを契機に年金基金にSRIが広がりました。
 日本でも、1997年の京都議定書などを契機に、企業の環境側面の取り組みは企業評価にとっても重要であるという考えが出てきて、99年に初めて環境に配慮した企業を評価して投資する投資信託「エコファンド」が設定され、いくつものエコファンドが誕生しました。そして、2006年、国連環境計画・金融イニシアチブと国連グローバル・コンパクトが世界の投資家などと、投資分析と意思決定に環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)を考慮するESG投資を広げる取り組みを始めました。
 これは、SRI専門の投資家だけでなく、より広く通常の投資でESGを考慮することを目指すものです。SRI投資が環境的に望ましい、または望ましくない一部の企業が対象であったのに対し、ESG投資はすべての企業を対象とします。なぜなら、環境や社会的課題への取り組みや企業ガバナンスへの対応はすべての企業に関わる課題だからです。
 ESG投資は世界的に広がり、その残高は14年時点で21兆ドル、世界の全投資額の30%を占めています。先進的な欧州ではその割合は59%、米国でも18%です。
 日本は、現時点ではまだ1%未満です。その日本でもようやく動きが出てきました。15年9月にGPIF(厚生年金と国民年金の積立金、約130兆円を運用)が国連責任投資原則に署名、ESG投資に乗り出すことになったからです。今後は日本でも、広がっていくでしょう。
 このESG投資は、環境・社会運動が目的ではなく、あくまでも投資パフォーマンスを上げる手段として位置づけられていることを認識する必要があります。特に年金運用のように長期的に運用する場合には、短期的な業績ではなく、数十年後も成長できる企業を見極める必要があります。ESGという視点はそのための有効な枠組みなのです。
 実際に、ESG要因と株価リターンの相関性を示す調査分析が増えており、ますます投資家のESG投資への関心が高まる状況となりつつあります。
 さて企業の皆さん、単なるCSR(企業の社会的責任)ではなく、長期的な生き残りと成長の要因としてのESG投資の眼鏡にかなう準備はできているでしょうか。
(東京都市大学教授/幸せ経済社会研究所所長)


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