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■特別寄稿──東郷和彦(京都産業大学教授・世界問題研究所長)


日露首脳会談は「失敗」「失望」ではない
「交渉の道筋」ができた意味を理解しよう

■会談前のメディア報道が領土問題の解決で加熱していた。だが、会談後の合意文書や安倍首相、プーチン大統領の発言をつぶさに読み解けば、そこに領土問題の進展も見えてくる──

 今次日露首脳会談は、概ね日本では「失敗」ないし「失望」の感が強く、ロシアでは「成功」ないし「プーチン外交の勝利」の声が強いようである。今回なんらかの形で領土問題が解決すると思っていたならば、そういう評価が出るのももっともであろう。しかし、今回の会談で領土問題の解決に至るのは無理だと思っていたならば、話は変わってくる。
 5月のソチ、9月のウラジオストクの会談の結果、9月、10月頃、「最低で2島」などのメディア報道が過熱した。しかし、11月のリマでの3回目の首脳会談でこの楽観的な雰囲気は明らかに変化していた。少なくとも相当数の専門家の間では、山口での会談では領土問題について主権についての合意までには至らないとの想定が増えていた。そうなると、会談の評価は全く別の視点からたてねばならない。

注目に値する
プーチンの発言


 第1に、領土問題については、これからの交渉の道筋になるような合意ができたかどうかが、最も大事な評価の基準になると思う。そういう道筋はできたか? 私はできたと思う。その道筋は、首脳間合意として、各紙に全文が報道されている2枚の紙に明記されている。記者会見では、それについて首脳間で若干の公開説明もなされている。そのエッセンスをいえば、以下の4点になる。
(1) 元島民の墓参手続きについて、追加的な一時的通過点の設置及び現行手続のさらなる簡素化を含む、ありうべき案の検討。
(2) 4島における共同経済活動に関する協議の開始。このことが平和条約締結のための重要な1歩になりうる。検討分野は、漁業・海面養殖・観光・医療・環境その他。国際約束の締結を含む法的基盤の問題が検討される。平和条約問題に関する双方の立場を害さず。
(3) 安倍総理記者会見:「過去にばかりとらわれるのではなく、日本人とロシア人が共存し、互いにウィンウィンの関係を築くことができる。北方4島の未来像を描き、その中から解決策を探し出すという未来志向の発想が必要」
(4) プーチン大統領記者会見:「この島は安倍総理の計画を実現するのであれば、日本とロシアが争う島でなくて、反対に、ロシアと日本を結びつける島にすることは完全に可能である」

 旧島民の墓参にしても、共同経済活動にしても、日ソ・日露の話し合いの結果すでにこれまでに実施されてきたものである。「どこに新味があるのか」と詰問する向きもあるかと思う。
 理論的に言うなれば、これまでやってきた墓参にしても、やろうとして難しすぎてできなかった共同経済活動にしても、4島の主権交渉が進行している間の言わば例外措置として考えられてきた。今度はどうもそういう位置づけがされていない。「共同経済活動」は「4島の主権交渉を成功させるための重要な1歩」として位置づけられているようである。
 単に道筋が示されているだけではない。16日の最後の記者会見における質疑応答のプーチン大統領の最後の発言は注目に値する。
「(1855年条約以来の日露間の領土の変遷について述べた後に)昨日私は安倍総理と話をし、元島民の方の感動的な手紙を読みました。私たちの意見では、これらの領土の歴史的なピンポン(筆者注:「とったり取られたり」の意味と思われる)をやめねばならない。結局のところ、日露の根本的な利益が最終的で長期的な解決を求めていることを理解しなければいけない」
「もしも誰かが、我々が経済連携だけに関心を持ち、平和条約の話を2次的なプランに棚上げしようとしていると評価しているのであれば、それは違う。私の意見では、平和条約の締結が最も重要である。なぜなら、このことが、歴史的な展望に立ち、中期的に長期的に、私たちに長期的な相互関係のための条件を創るからである。このことは諸島の上での活動より重要なのである。日本はロシアとの協力なしに70年間生きてきた。深い協力なしに私たちは生きてきた。私たちはそのようにして生きていくことができる。それはできる。しかし、それは正しいだろうか?否、それは正しくない」

経済協力分野は
双方の共通利益


 第2に、領土以外の分野ではどういう結果になったのか。両国間の経済協力分野については、2013年4月の安倍訪露で同行した民間経済代表団に端を発し、15年5月のソチにおける8項目計画に発展したものが、今回、政府間文書12(厳密にはそのうち2つは政治・文化に属するが)、民間文書68、合計80の協力文書に結実された。発表された文書を概観するだけでは、プロジェクトの具体像は必ずしも明らかに浮かんでこないが、「投融資額3000億円」(12月16日「日本経済新聞」)と報道される経済協力分野が、かつてない広がりをもっているように見受けられる。これらの経済協力は、ロシアのみが裨益する日本からの持ち出しではない。双方の民間が裨益するべき共通利益と解すべきものである。それぞれにおいてプロジェクトの実現のために真剣な努力が払われているようである。
 次に、安全保障や日露の地政学的な利害の調整についてはどうか。国際社会において両国がいかにその根本的利益を調整するかという極めてデリケートな問題が表にでてきている。12月12日に行われた日本テレビ・読売インタビューではすでに「日本はロシアへの制裁に加わった。制裁を受けたまま、どうやって経済関係を新しいレベルに発展させるのか? 日本が(米国との)同盟で負う義務の範囲内で、露日の合意がどのくらい実現できるのか、我々は見極めなければならない。日本はどの程度、自分で独自に物事を決められるのか」と述べた。
 16日の記者会見の質疑応答の最後でも、領土交渉と米国との関係に触れ、56年宣言交渉時のいわゆる「ダレスの恫喝」やロシア艦船の太平洋への出口の問題を提起、「日米関係の特別の意味、日米安保条約の条約上の義務を念頭に置くと、これらの艦船の動きはどういう意味を持つのか。柔軟性について話すなら、日本の同僚・友人が、ロシアにとってのデリケートで懸念を誘う問題を考慮していただきたいのである」と述べたのである。
 平和条約締結に本格的に取り組もうとするならば、混沌を深める国際情勢の下で、我が国にとって、対米・対中・対露問題をどのように調整していくかは避けて通れない課題である。ロシアにとっても同じである。プーチン大統領が2回にわたってそういう問題を提起したことは、交渉にあたって彼なりに全力を傾けてきていることを意味するように思われる。

日露関係の成否は
事務レベルの努力


 最終記者会見を「今回の君と私の合意を出発点に、自他共栄の新たな日露関係を本日ここから共に築いていこうではありませんか」という力強い発言で締めくくった安倍総理にしても、「非常に手厚いおもてなし、実りのある作業、すべての議論した問題に対して実務的な建設的なアプローチをされたことに対して感謝します。安倍総理のご都合のいい時期にロシアを訪れるようにご招待します」という言葉で受けてたったプーチン大統領にしても、これからの交渉は決して簡単なものではない。
 領土にしても経済にしても地政学的な国の位置づけにしても、首脳レベルの指導の下に、事務レベルで受けて立つべき課題は山積している。日露関係の成否は、それらの方々の努力にかかっていると言ってよいと思う。
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