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元木昌彦(もとき まさひこ)
編集者。1945年生まれ。「週刊現代」や「フライデー」の編集長として権力批判の誌面づくりを貫いた。メディア規制の動きに反対の論陣を張る。2006年11月、講談社を退社。オフィス元木・編集者の学校主宰。オーマイニュース元社長。上智、明治学院大学講師。大正大学客員教授。


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アレックス・カー(Alex Kerr)
1952年米国メリーランド州生まれ。64年から66年まで、父の赴任に伴い、横浜に住む。74年、イェール大学日本学部卒業。72年から73年まで慶應義塾大学国際センターで日本語研修。74年から77年まで英国オックスフォード大学で中国学を専攻し、学士号と修士号を取得。73年徳島県祖谷で300年前の茅葺き屋根の農家を購入、「?庵(ちいおり)」と名付ける。77年から京都府亀岡市に居を構え、外国人に伝統芸術を紹介するプログラム、書や古典演劇、古美術蒐集など、日本文化の研究に励む。90年代半ばからバンコクと京都を拠点に、東洋文化に関する講演、通訳、執筆活動を行う。2000年代に京都の町家が壊されていることを懸念して、9軒を修復して宿泊施設として開業。2010年から景観と古民家再生のコンサルティングを地方に広げ、祖谷、長崎県小値賀町、奈良県十津川村などで十数軒を改修して、滞在型観光事業を営む。著書『美しき日本の残像』(新潮社→朝日文庫)で94年の新潮学芸賞を受賞、02年『犬と鬼』(講談社)を刊行。同書のオリジナル『DOGS AND DEMONS』は01年にアメリカで初版が発行され、韓国や中国でも翻訳された。


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■元木昌彦のメディアを考える旅196
 今月の同行者/アレックス・カー 氏(東洋文化研究者)


看板撤去、電線埋設、自然の保持…
日本全土を大掃除する公共事業

■これからの経済発展のキーワードは美しさ

 今回登場していただいたアレックス・カーさんはアメリカ人である。だが彼の書いた『美しき日本の残像』(朝日文庫)や『犬と鬼』(講談社)を読んだり、会って話してみると、「文人墨客」という日本語としてはほとんど死語になってしまった言葉を思い出させる人である。
 アメリカとイギリスで日本学と中国学を専攻し、21歳の時、四国・徳島県の秘境・祖谷(いや)の茅葺き古民家を買って再生することを手始めに、京都・亀岡にある矢田天満宮境内の古い家に住み、日本の伝統芸術を紹介するセミナーを開くなどの活動をしてきた。
 文人・白洲正子や歌舞伎界で坂東玉三郎などの知遇を得、お茶、生け花、書画骨董に通じ、現在は長崎県五島の小値賀(おじか)町など、各地で古民家再生等による地域活性化事業を手がけている。
 彼ほど日本の自然や美を心から愛し、それが壊されることに心から憤っている人を知らない。白洲さんにこう言われたという。「何かを愛しているなら、怒らなければいけない」。アレックスさんは「日本は自国の文化にプライドをもっていない」と言う。コンクリートで海岸を埋め立て、森林を伐採し尽くし、富士山をゴミの山にしてしまう日本人よ、今こそ彼の言葉に真摯に耳を傾けるべきである。
             ◇
元木 アレックスさんにお目にかかりたいと、ずっと思っていました。今は京都の亀岡とタイのバンコクが拠点ですか?
アレックス 京都にいるのは少ないですね。今年だけでもタイ、ラオス、それから隠岐の島、奈良の十津川、四国の祖谷や飛騨高山等を飛び回ってます。
元木 長崎県五島の小値賀町で古民家を再生して町を活性化させ観光を誘致しようとしていますが、どういういきさつから始めたんですか。
アレックス 基本的に僕は子供の時かから日本の古い家が好きなんです。そういうものはヨーロッパなどの田舎へ行くといっぱい残っているのに、日本では古民家がどんどん壊されてしまっているのはもったいないっていう、単純な思いからです。
 こういうものは2度と造れない美しさがある。社会の財産ですよ。そう思って、若い頃から徳島の祖谷で古民家を買って何年もかけて直しましたし、今住んでいる亀岡の家もそうです。
 本格的に京都で古民家再生をやり出したのは2004年からです。日本に来て何十年かたちましたが、地方は過疎化や少子化でかなり苦しい状況になってきています。
 これは日本だけじゃなくて、田舎の空洞化は世界的な問題で、ヨーロッパはだいぶ前からこの問題と闘ってきています。人口は減ったけれど美しい姿が残っている村は、フランスのプロヴァンス地方とか、イタリアのトスカーナ、イギリスのレイクカントリー、コッツウォルズのようにたくさんあるじゃないですか。
 なぜそれができたかというと、結局、いい意味での観光地化が救ったのです。これまでのような、大型バスで団体客を連れてきてワイワイ騒いで回って帰るような観光ではなく、ゆっくり泊まってもらって自然や文化をじっくり味わってもらおうという方向に変えたからです。日本でもそれができないかと思っていたら、小値賀町と出会ったのです。

電線を地下に
埋めていない日本


元木 小値賀には若い人たちが来て手伝っているようですが、今のところ、どのぐらいまで進んでいるんですか。
アレックス 小値賀では家を7軒直して宿泊施設にして、1軒をレストランにしました。古民家目当てにいろんなお客が来始めると、ほかの民宿も栄えるわけです。いちばんいい形の観光というのは、富裕層ばっかりじゃなくてバックパッカーも来たりすることだと思いますが、小値賀にはどんどんそういう若者も来ています。
元木 古民家の宿泊施設の値段は?
アレックス 1万円か1万2000円、その程度です。決して高くはない。
元木 ネックは交通費が高いということかな。
アレックス そうですね。例えば東京から行くとしたら、ほぼ同じぐらいのお金と時間でハワイへも行けるしバンコクにも行ける。そこが競争相手ですね。だから小値賀へ行けば美しい自然があり文化があり食べ物がおいしいとか、そういうものがないといけない。それに古民家もきれいでないとわざわざ都会から来てくれませんよ。
元木 アレックスさんのすごいのは、古民家を改造する時、昔ながらの不便なものをそのまま残そうという考え方じゃなくて、きれいなバスとトイレを入れたりトイレを水洗にしたりして、来た人が快適に過ごせるようにすることです。
アレックス 文化庁のように、明治時代がこうだった江戸時代がああだったって見せる資料館をつくるのが僕の仕事じゃない。残念ながら今までは地元の大きな屋敷がきれいに直されて、勉強にはなるけれど住めない、使えないのです。一方で普通の家はボロのまま手入れもしないか、壊されてしまう。
 そんな両極端ではなく、古い家を今の時代に甦らせるやり方をヨーロッパやアメリカから学びました。ボストンは京都より木材建築が多いのですよ。
 だから、柱だとか構造、素材、そういう昔の良さをきちっと残しながら、現代的なものをどこまで、どんな形で取り入れるかにチャレンジしています。
元木 アレックスさんは、日本人は環境破壊をやめろ、自然や伝統的な家屋を残せと言い続けてきました。しかし残念ながらそうした警鐘に耳を貸さず、日本の“美しき残像”は破壊され続けています。
 言っておられるように日本人は自然を憎んでいるとしか思えません。日本人は「自然と闘う」という言い方をします。自然は常に闘う対象で、克服すべきものなんだと。だから海岸や川岸をテトラポットでいっぱいにしたり、東日本大震災で津波に襲われた東北の海岸に高い防潮堤を造って美しい海岸線を壊そうとしています。
 梅や桜を愛でたり、京都の苔寺をありがたがったりするけれども、あれはその一部分だけが好きなので、大自然を愛する気持ちに欠けるのではないか。そうでなくては日本人が好きな富士山がゴミの山になるわけがない。
アレックス それはおっしゃるとおりです。電線や電話線を地下に埋めていない先進国は日本だけです。日本は戦後、モノをつくる企業ばかりを優遇してきたため、成長産業になるはずの観光業が育たず、アメリカやヨーロッパに比べると訪れる観光客の数ははるかに少ない。

必要な公共工事は
日本全土の大掃除


元木 欧米は石の文化で日本は紙や木の文化だから日本には古いモノが残らないという刷り込みがあります。しかし1昨年、長野県の栄村という過疎村へ行ってきましたが、ここは3.11の次の日に大地震に見舞われました。昔の木造家屋も傾いたりして相当な被害を受けたのですが、村の人たちに聞くと、これぐらいはすぐに元に戻るから心配ないと言うんです。
アレックス 昔の家はショックアブソーバーになっているのです。柔らかい作りだから、地震でも一気にガンッと来ないで、グニャッと来る。だから引っ張れば大丈夫なのです。
 1昨年に祖谷にある私の家「?庵(ちいおり)」を大改修しました。傾いていたので、ケーブルをつけて半年間ぐらいグーッと引っ張り続けて傾きを戻しました。神戸の大地震の時にも古い家は残っていて、ダメになったのは戦後に造られた家が多かったです。
元木 『犬と鬼』ほど官僚を厳しく批判した本はないと思いますが、各地でやられている古民家再生事業は公共事業ということで補助金を受けているそうですね。
アレックス ほとんどが一種の公共工事です。公共工事自体がいけないのではなくて、いらない道路工事や護岸工事、ダム工事をやめて電線埋設や古民家再生に回せばいい。地元のゼネコンにとっては道路を造っても電線埋設をやっても同じなのですよ。だから中身を変えればいいのです。
元木 おっしゃるとおりですね。
アレックス 最近、少しだけど景観・美観工事のための補助が国交省や文化庁、農林水産省から付き始めたので、自治体に教えてあげて、申請書を書く知識のないところには手伝ってあげたりしています。これから日本が本格的公共事業としてやらなくてはいけないのは大掃除です。どういうことかというと、日本は外国から観光客を呼びたいのですが、見事に日本全土を汚してしまいました。日本中に錆びた看板、ボロの工場、ハウス、ブルーシート、捨てられた車や農具と、廃棄物だらけなのです。
 そこを更地にして公園や農地にしたりする。交通安全の看板を立てることは役所の義務と思われているようだけれど、古くなって美観を壊しているものを撤去するのも役所の義務なのです。これまではそういうことを考えてもこなかったし、その予算もない。だから、公共事業費を美観、景観、掃除、電線埋設、自然の保持に回せばいい。ゼネコン業界にとっては、どっちをやっても同じなのですからね。
(以下、本誌をご覧ください)
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