巻頭言
宮脇磊介の


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宮脇磊介氏
(初代内閣広報官)





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プーチン大統領の
再登板と日本の対応


 ロシアでは、3月の選挙でプーチン大統領が再登板するとの観測が支配的である。プーチン氏は、日本との間の国境線画定問題解決に積極的であった。それが、相次ぐ日本の首脳や外務省の対応の拙さから、日本の外交能力に愛想を尽かされるに至っている。正常な交渉テーブルに就くための信頼回復には、日本側になすべき問題が多い。
 日本のメディアのロシア報道は、米国追随で事実が歪曲されがちである。2008年のロシア・グルジア間の紛争では、米国と日本のメディアはロシアからの侵攻であるとし、ロシアを激しく非難した。しかし、欧州諸国では、当初からグルジアのサーカシビリ大統領の軽挙妄動による攻撃であるとした。欧州委員会では、調査委員会を設けて真相究明にあたり、やがてグルジア側からの侵攻であることを結論付けたのであった。
 イスラエルの存立を危うくするイランの核ミサイル開発を防ぐために米国は、イランをかばう姿勢をとるロシアに冷戦が終わった今なおMD(ミサイル・ディフェンス)など事ごとに敵対している。昨年末、モスクワを始めとして再度にわたり、ロシア各都市部中心に大集会が持たれた。さっそく、「スラブの春」とまで期待する論調が、米国で支配的となった。これも「強いロシア」を標榜するプーチン氏に独裁者のような強権的イメージを抱かせるべく、国際世論に働きかけてプーチン政権に揺さぶりをかける戦略の一環である。
 日本では、米国で学んで米国人脈に豊富な学者研究者が主流をなし、ロシアに対する疑心暗鬼が強い。一方、ロシア専門家は、モスクワ支局勤務経験のある記者OB・学者研究者・外交官OBなどを足してもそこそこの数しかいないため、影響力は弱い。これらの人びとに共通して見られる点がある。專制独裁の旧ソ連から民主主義国家となったロシアへの変化に対応した頭の切り替えができないでいることと、プーチン個人への研究が足りないことである。また、領土問題に関する政治家の不勉強と外務官僚の曖昧な態度が、「並行協議」を「2島返還」と烙印を押して潰すなど、折々に問題をこじらせてきた。
 ロシアには世論が生まれ、政権に影響を強めるに至っている。ソ連時代の首脳の一存で重要政策を決定できる環境ではなくなった。にもかかわらず、日本は、戦争終結前後のソ連の在満蒙日本人婦女子への暴行凌虐行為、60万人に及ぶシベリア抑留、千島列島への侵攻占拠など、ロシア国民が知りえない不法行為の数々を、ソ連がロシアに変わった後もロシア国民世論に訴える努力をすることなく、ひたすら「4島返還」を叫んできた。
「強いロシア」は、プーチン氏のみならずロシア国民こぞって希求するところであり、同時に、両者共に「安定」を望んでいる。歴史上繰り返されてきた暗く苦しい時代を、2度と迎えたくないのだ。
 街のチンピラだったプーチンを今日あらしめたのは、柔道である。公邸に置かれた嘉納治五郎の座像を指して「この人のお蔭」と言う。2000年の来日時に森喜朗総理が柔道6段位を授与しようとしたのを「修業が足りぬ」と辞退したプーチン氏である。また、政権担当後、直面した危機を柔軟で豊かな戦略的発想で立ち直らせてきた確固たる意思と深い戦略的思考に富んだプーチン氏の実像を、多くの日本人は理解できていない。人間の器量と戦略的思考は、それらが低い人は高い人の力量が理解できないのみか、自分よりも低くみて批判しがちなのである。
 これらの認識のもとに、知恵を絞り、「相手の出方待ちの外交」から「攻めの外交」への力を備え、本年9月にウラジオストックで開催されるAPECまでに、プーチン氏をはじめとするロシア側と腹を割った議論を進めることが、日本が今、急ぎ対応すべき事柄の基本であろう。
(初代内閣広報官)


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